静まりの中の出会い

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聖書の言葉

思い煩いは、何もかも神にお任せしなさい。神が、あなた方のことを心にかけていてくださるからです。

新約聖書 ペトロの手紙一 5章7節

長谷部真によるメッセージ

2020年の歩みも、残すところ2ヶ月となりました。今年はとりわけ、新型コロナウイルスの感染拡大が、私たちの日常生活に、大きな変化をもたらしました。いつも通っていた仕事場や学校、日常生活のリズムが変わり、世の中全体が慌ただしく過ぎていった、そのように思われます。今年の歩みが始まった頃、このような年になると、誰が予想出来たでしょうか。教会も同じく、多くの変化と対応が求められました。慌ただしく変化していく日常と、身の回りの声に翻弄され、心を騒がせる。日常の生活の中で、周りに流されて、いつの間にか心の落ち着きを失ってしまう、ということは無いでしょうか。

「思い煩い」とは、自分の心を分散させたり、分裂させたりさせるもの、と聖書は教えます。皆さんにとって自分の心の落ち着きを失わせる「思い煩い」は何でしょうか。健康状態、仕事のノルマ、学校での成績、お金の問題、ご近所の方々や、家族との人間関係。様々な価値観の中で、私たちの日常は、考えなければならないことで溢れています。そうした声に囲まれ、心が騒がしくなるとき、私たちは心の余裕を失います。心の余裕を失って、ほんの小さなことに対してもイライラしたり、「誰も自分に心をかけてくれない」と心を閉ざしたりしてしまうことがあります。私自身、牧師であっても、心を騒がせることがしばしばあります。今朝の御言葉は、そんな私たちの現実に語りかけています。

今年に入り、私自身、いろいろな対応に追われて、中々自分の時間を作るのが難しい時期を過ごしていました。しかし先日、オランダのカトリックの司祭、ヘンリ・ナウエンという方の書いた、「静まりから生まれるもの」という本と出会いました。ある大学での三つの説教をまとめたものです。慌ただしい今の時代を生きる私たちに相応しいメッセージでした。この本を通して、私は信仰生活において、静まる時間が与える、二つのことを気づかされました。

一つ目は、生活の中で独り静まる必要についてです。独り静まる時間が無いとき、私たちの心は平安を失います。しかし、忙しい私たちの日常生活で、独り静まる時間を持つことは容易ではありません。それでは、イエス様はどうだったでしょうか。実はイエス様の生涯も、私たちと同じく、いやそれ以上に慌ただしく忙しいものでした。朝から晩まで、癒しの御業と、御言葉の説き明かしを望む人々が、留まることなく訪れました。人々が訪れる間は、一人になる時間などありません。しかし、そんな慌ただしい中でも、イエス様は、独り静まる時間を大切にされました。イエス様は毎朝早く、人々がまだ寝静まっている頃、山に登られて、独り静かに祈っておられました。それは静まり祈る中で、自分を支配しておられる父なる神様と出会い、自分の思いではなく、神様の思いに委ねるためです。

ナウエンの本を通して気づかされた、二つ目のことは、「隣人への愛の配慮」独り静まり祈ることから始まる、ということです。日常の様々な価値観、声、様々な思い煩いを、神様に委ねて、独り静まり祈る。その中で私たちは、私たちのことをいつも心にかけてくださる神様と出会います。そして神様が、自分と同じように、隣人にも心をかけておられることに気づかされます。祈りの中から、神様が自分に心をかけてくださるように、苦しみの中にいる隣人のために、共にいようとする眼差しが与えられます。「配慮:ケア」の言葉は、苦しむ人のために自分の心を痛め、悲しみを共にすることを意味するそうです。独り静まり祈る中からこそ、私たちは、具体的に見えてくる具体的な隣人への配慮の思いが与えられる。この本は、そのことを私に教えてくれました。

独り心静かに過ごす時間。慌ただしい生活の中で、その時間を取り分けることは、中々出来ることではありません。主イエスの弟子たちも同じでした。しかし「静まり」から程遠い、慌ただしい現実に生きる私たちに、聖書は「思い煩いは、何もかも神にお任せしなさい。」と教えます。心静かに祈り、思い煩いを全て神様に任せるとき、私たちは、自分の歩みに誰が伴って下さっているかに気づきます。私たちの歩みに伴ってくださるのは、主イエス・キリストというお方です。静まりの中でキリストと出会うとき、私たちのことを心にかけておられることに気づきます。

私たちは慌ただしい日常の中を歩んでいます。それはまるで、嵐の中を小舟で漕ぎ出すようなものかもしれません。しかしその小舟には、イエス・キリストが共におられるのです。日常の中で、目の前の事柄に心奪われ、心の余裕を失うこともあるかもしれません。しかし、その私たちの現実に、聖書は、神様が私たち一人一人のことを心にかけてくださる、と励まします。

今日から始まる新しい一週の歩みに、主なる神様の平安が豊かにありますように。

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