驚くべき恵みがあなたにも

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聖書の言葉

罪のために死んでいたわたしたちをキリストと共に生かし、―あなたがたの救われたのは恵みによるのです―

新約聖書 エフェソの信徒への手紙 2章5節

藤井真によるメッセージ

キリスト教会でよく歌われる賛美歌の一つに、「アメイジング・グレイス」という歌があります。この歌は、日本人の歌手にもよく歌われ、CMなどでもよく流れていることから、歌詞の意味はよく分からなくても、とても美しい曲の歌だなという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。「アメイジング・グレイス」というのは、日本語では「驚くべき恵み」と訳すことができます。私たちの周りには様々な恵みがあります。何ともない些細なことであったとしても、平凡なことであったとしても、私にとってはとても幸せだと感じることもあります。でも、聖書が語ります恵み、キリストが与えてくださる恵みの真ん中に触れるとき、その人は驚かざるを得ないのだ、びっくりするのだと言うのです。

なぜ、神さまの恵みに触れることが驚きとなるのでしょうか。実際にこの「アメイジング・グレイス」という歌を作った英国のジョン・ニュートンという18世紀後半に生きた人の話を少ししたいと思います。ジョン・ニュートンは、かつて奴隷貿易の船長として働いていました。当時は、アフリカの黒人たちを奴隷として、売買していたのです。彼らを売り飛ばすために、まるで船に荷物を詰め込むかのように、黒人たちを狭い船の中に、追いやりました。人と人とも思わず、ただお金を稼ぐ道具としか見ていなかった自分のことを、ニュートン自身は何とも思っていなかったのです。けれども、彼にある転機が訪れます。それはいつものように、船に奴隷たちを乗せて、大海原を航海していたときのことでした。その途中に大嵐に遇い、死の恐怖を経験したのです。

そのとき、今まで見えてこなかった自分の姿が見えてきました。ニュートンは奴隷船の船長です。船長として、乗員たちの命をあずかる大きな責任を抱えながら、航海をします。航海図を広げて、羅針盤の射す方角を見つめながら、自分が今どこにいるか、どこへ進んでいるのかを確かめます。目の前に障害物があればぶつからないように、舵を切り、前へと進みます。また嵐が襲ってきても、自分の身を張って、乗員の命を守り、安全へと導いていく仕事です。それゆえに、船員たちから「キャプテン!」と呼ばれるほどに全信頼を受けているのが船長です。

でも、ニュートンは船長としていったい何をしていたのでしょうか。自分の船はうまく操作し、順調に航海をすることができていたとしても、「人生」という名の航海においては、まったく正反対の行動をとって生きていたのです。お金のために人を奴隷として売り渡し、そのことを何とも思わない心の冷たい人間として生きていたのです。大嵐に遭ったとき、自分の奴隷船の船長としての結末が、どこに向かっているのか。そのことを知ったのではないでしょうか。神と人を愛し、敬い、仕えることをせず、自分の好き勝手に生きる人生の行く末は、死んで滅びるだけなのだと。

ニュートンの母親はキリスト者でした。それゆえに、彼も、幼い頃からイエス・キリストのことを知っていました。知っていたけれども、知らない振りをして生きていました。しかし、死の恐怖の中で、キリストのことを思い出したのです。死んで滅びるしかない運命のもとにある自分をなお憐れみ、救い出してくださる方がおられる。「あなたはもう滅ぶことはないのだ。あなたが滅びることなく、神さまが与えた命を喜んで生きることができるように、私はあなたの罪をすべて背負って死んだのだ」。そのように告げてくださる十字架の愛の言葉を、ニュートンは死の淵に彷徨う中で聞きました。

やがて、洗礼を受け、キリスト者となり、牧師となりました。ニュートンは、このように人生が大転換することを想像もしていなかったでしょう。それほどに神の恵みは驚くべきものでした。そして、いくつもの人々の心に残る賛美歌をつくりました。その代表的な賛美歌が「アメイジング・グレイス」です。いくつもの翻訳がありますけれども、お話の後に聞いていただく賛美歌は次のような歌詞です。

我をも救いしくしき恵み

迷いし身も今立ち帰りぬ

英語の原文にそって訳しますと、また違う響きで聞こえてきます。

驚くべき恵みよなんと甘く美しいことよ

この恵みは私のように挫折し滅びかねない者を救ってくださる

私は失われていた者しかし今は見つけていただいている

かつては目が見えていなかった者しかし今は見える

ニュートンは、かつては、神のもとから失われていた者でした。神の目には死んでいた者でした。船長であったニュートンはきっと視力はよかったのでしょう。遠くの海を見渡すだけの広い視野を持っていたのでしょう。でも、キリストの恵みを知った今、あのときの私はまったく見えていなかった。肉の目は良くても、心の目は神のお姿を見てはいなかった。いや、神など見なくても、自分が持っている眼差しをもって、人生全体を見渡すことができると自負していました。でも、嵐の中で、死を前にしたとき、彼は恐れしか見えなかったのです。滅びいく運命しか見えていなかったのです。しかし、そこで、キリストの救いを見出します。いや、そのような人生の深い挫折の中でうずくまる自分のもとを訪ね、見出してくださったイエス・キリストに出会ったのです。それは「驚くべき」としか言いようのない恵みでした。そして、キリストを知っていく中で、人を脅かす最大の敵である「死」に打ち勝つ恵みを知りました。「アメイジング・グレイス」の中に、次のような言葉もあります。

この身は衰え世を去るとき

喜びあふるる御国に生きん

やがて地上の命を終える時、そこに見えるのは滅び、恐れではありません。死に打ち勝たれたキリストと共に、命に溢れた喜びに生きる自分の姿でした。そのような驚くべき恵みがあなたの前にも差し出されています。どうか、このキリストの恵みをあなたも受け入れていただきたいのです。

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