明日を生きる力

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聖書の言葉

青春の日々にこそ、お前の創造主に心を留めよ。苦しみの日々が来ないうちに。「年を重ねることに喜びはない」と言う年齢にならないうちに。[…]すべてに耳を傾けて得た結論。「神を畏れ、その戒めを守れ。」これこそ、人間のすべて。

旧約聖書 コヘレトの言葉 12章1,13節

藤井真によるメッセージ

世界的に有名な映画監督に黒澤明という人がいます。彼の作品の中に「生きる」という映画があります。ご存知の方も多いかもしれません。主人公である渡辺という男は、市役所の課長として働いていたのですが、仕事への情熱はもうとっくになくなってしまい、無気力な毎日を送っていました。ある時、体調を崩し、病院に行くと、医者から癌を宣告され、余命が少ないことを告げられるのです。渡辺はショックのあまり自暴自棄になり、放蕩する毎日を送るようになります。しかし、何をしても満たされることなく、空しさだけが残り続けたのです。

そんなある日、渡辺は職場の元部下である女性と街でぱったり出会います。彼女の生き生きとした姿を見て、励まされ、「自分にはまだできることがある」ということに気付かされます。そして、子どもたちの楽しい笑い声が満ちるような公園を作ろうといって、最後まで一所懸命生きるのです。病気や死ということを必ずしもマイナスに考える必要はないのだ。「死」という最悪な状況にあっても、なお前向きに生きる道がある。しかも、自分のためではなく、誰かのために、子どもたちのために、最後の最後までいのちを用いることができる。そのようなメッセージがこの映画には込められていると私は思いました。そして、この映画は多くの人々の心に訴え、高い評価を得た作品になったのです。

今日においても、例えば、「終活」という言葉がありますように、自分の終わりの日に備えてどう生きたらいいのか。そのことに関心を持っている人も多いと思うのです。自分の死から逆算するようにして、自分の人生を考え、計画していく生き方です。そのように、「死」という揺るがない現実を前にした時、逆にこれまで以上に積極的に生きることができるようになった。そういうことは確かにあると思うのです。

最初にお読みした「コヘレトの言葉」には、「空しい」という言葉がたくさん記されているのですけれども、それは決して儚いとか無意味ということではありません。そうではなくて、私たちの地上のいのちは束の間である、限りある人生であるということを言おうとしているのです。だからこそ、今という一瞬、一瞬を真剣に生きよう!と呼び掛けるのです。それも、自分の好き勝手に生きるというのではなく、神様に喜んでいただけるような生き方をしよう!と言うのです。コヘレトが言うように、死という現実を見つめることが、若い人たちをはじめすべての世代の人たちにとって、大きな意味を持つということがあります。人生には限りがあるからこそ、神様から与えられたいのちと時間を大切にし、賢く用いていくのです。やがて迎える死という現実は、悲しいことには違いないのですが、死んだらどこか知らないところに行くというのではなくて、私たちにいのちの息を吹き込んでくださったさった神様のところに帰って行くのだ!コヘレトはそのようにも語ります(コヘレト12:7)。

しかし、そこでふと思うことがあるのです。聖書が本当に伝えようとしているメッセージはそれだけなのかということです。「死」という現実が、私たちを真実に生かすのでしょうか。「死」というものが、私たちの生きる根拠や土台になるのでしょうか。私たち人間を喜びに満ちた人生へと押し出すものとはいったい何なのでしょう。どんなことがあっても、「生きよう!」という思いへと駆り立てるものとは何なのでしょうか。それは、私たちをお造りになり、いのちをお与えくださった「神様」だということです。「死」というものが私たちを生かすのではなく、いのちを与えてくださった「神様」こそが、死を前にした私たちを慰め、力づけ、復活の希望へと導いてくださるのです。だから、コヘレトは自分の存在を掛けて、若い人たちに、そしてすべての人たちに心を込めて語るのです。「青春の日々にこそ、お前の創造主に心を留めよ。」「あなたの若い日に、あなたの造り主を覚えよ。」そして最後にこう言います。「すべてに耳を傾けて得た結論。『神を畏れ、その戒めを守れ。』これこそ、人間のすべて。」

やがて死ぬ身であることを覚え、今を大事に生きることももちろん意味があることです。死んだら、神様のもとに帰って行くという信仰も間違っているわけではありません。しかし、本当に私たちを喜びと希望に満ちた人生へ押し出すのは、神様ご自身です。空しさ、儚さの奥に潜んでいる罪の問題から私たちを救うために、イエス・キリストは十字架につき、復活してくださいました。キリストが与えてくださる復活のいのち、永遠のいのちこそが人を真実に生かします。死の只中にあっても、決して色褪せることなく、むしろますます光輝くいのちがここにあります。この神のいのちの恵みに、今ここで生き始めているのです。

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