私に触ったのはだれか

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聖書の言葉

ときに、十二年このかた出血が止まらず、医者に全財産を使い果たしたが、だれからも治してもらえない女がいた。この女が近寄って来て、後ろからイエスの服の房に触れると、直ちに出血が止まった。

新約聖書 ルカによる福音書 8章43,44節

川瀬弓弦によるメッセージ

悪霊に取りつかれていて自分の名前さえも言えない男の癒しに続く、ある一人の女性の物語です。この女性は12年もの間、血が止まらなかったと言われています。女性に特有の病です。一か月に一度やってくる生理は非常に体にも心にも負担です。それは出産のための大切な準備なのですが、命を生み出すということがいかに大変なことなのかを思い知らされます。そんな状態が12年間止まることもなかったというのです。命を生み出すどころか、彼女の体から命が流れて続けていくのです。悪霊に取りつかれていた男は文字通り墓場に住んでいましたが、命の象徴である血を失い続ける彼女の人生もまた墓場同然でした。

ところがある日、彼女にとって転機が訪れます。イエス様が自分の町にやって来られたのです。彼女はもちろん知っていました。イエス様はこれまでも数多くの病人を癒されたことを。迷わず彼女はイエス様に近づいていきます。癒されたかったのです。この苦しみから自由になりたかったのです。ところが彼女はイエス様と直接向き合おうとはせず、こっそりと近づき、イエス様の衣に触れようとするのです。イエス様はこの時、今にも死にそうになっている少女の家に行く途中でした。急患です。お忙しいイエス様を誰もお引止めしてはなりません。そういう遠慮が働いたのでしょうか。そうではなかったでしょう。

イエス様に癒していただいた人は数えきれないほどいます。多くの人はイエス様のもとに来て、手を置いていただけました。ある人はイエス様に向かって叫び続け、周りの人にうるさいと怒鳴られてもなお叫び続けて癒された人もいます。でも誰もが勇気をもって「助けて」と言えるわけではありません。恐怖で声がでなかったり、絶望していても助けを求めることができないものです。自分から助けてて言える人も、そうでない人も、同じように助けを、また癒しを必要としています。私たちの社会は叫びたくても叫べない、叫ばせてくれない社会です。助けを求めれば「弱い人間だ」と言われ、また「人に迷惑がかかるから」と言いたいことを言い出せない雰囲気が作られています。強そうに見える人も、威張っている人も、自分の弱さを隠そうとしてそうしているのだと思います。

原因不明の病人は嫌われました。特に、いかなる理由であれ血を流す者はそうです。彼女は医者にも騙され、全財産を巻き上げられてしまいました。彼女は人を恐れ、誰も信用できずにいたのだと思います。彼女は「助けてほしい」と願うことができずにいたのです。ましてや大勢の人々に紛れることなど、本当はしてはならないことでした。勇気があったからそうしたのではありません。勇気も大胆さも自信もありません。あったのは「イエス様の衣にさえ触れれば癒される」と信じる小さな信仰だけです。そして、その信仰の通りたちまち癒されました。

さあ、彼女は一体どうするでしょうか。たとえ誰にも知られず無言で立ち去ったとしても、癒された喜びで彼女は十分幸せになれたかもしれません。ところがイエス様は「私に触れたのは誰か?」と急に問われたのです。食い逃げはいけない。ちゃんとお礼くらい言ったらどうか?そんな常識的な話しではありません。彼女は自分が癒されたことの喜びでさえも、誰かと分かち合うことができないほどに孤独だったのです。恐れていたからです。恐れは人との関係だけではなく、神様との関係も遮断してしまいます。でも本当に必要としているのは、そういう壊れた関係の回復なのです。

人は体の癒しだけではなく、心の癒しも必要としています。イエス様は助けを求めることもできない私達の心の叫びも聞き取っていてくださいます。彼女にとっての本当の癒しは、まだ震えながらですけれども、イエス様の呼びかけに答えることから始まりました。彼女を救ったのは「衣さえ触れば癒される」と信じたことではありません。イエス様の呼びかけに応えた、その信仰によって救われたのです。神さまが語り、そして私たちがその声に応える。そういう関係になることが聖書の語る救いであり、そこに本当の癒しがあります。

このラジオを聞いている方も、今日、こっそりでもいいのです、まずは教会に足を運んでみてはいかがでしょうか。一番後ろの席でも構いません。誰の目にもとまらなくも結構です。イエス様はあの日の時のように皆さんのために立ち止まってくださいます。その心の叫びを聞き取ってくださり癒しを与えてくださいます。そして聖書の言葉を通して神様は必ず皆さんを呼び止められます。その神さまの呼びかけにぜひ答えていただきたいのです。本当の癒しを信仰をもって受け止めていただきたいのです。私も皆さんのためにお祈りしています。

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