ギャラリーwithへようこそ②

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聖書の言葉

あなたがたもこのように働いて弱い者を助けるように、また、主イエス御自身が「受けるよりは与える方が幸いである」と言われた言葉を思い出すようにと、わたしはいつも身をもって示してきました。

新約聖書 使徒言行録 20章35節

吉田実によるメッセージ

今回は私が勤めさせていただいております神戸長田教会で一昨年の春からオープンいたしました「Gallery with」で展示しています佐野由美さんの作品と歩みについてお話をさせていただいております。佐野由美さんは大学で美術を学ばれた後、ネパールのパタン市のスラム街にありますラリット福祉小学校で、ボランティアの美術教師をする決心をなさいました。子どもたちと一緒になって美術の授業に取り組み、子どもたちのお世話をする傍ら、スラム街に生きる人々の貧しくても生き生きとした姿を描き続けた彼女でしたが、あと1週間で帰国するという時に、理不尽な交通事故に巻き込まれ、天に召されたのです。まだ23歳でした。そんな佐野由美さんの作品と生涯について、今日もお話をさせていただきます。

先週もお話しいたしましたように、由美さんはラリット福祉小学校の子どもたちと一緒に美術の授業に取り組みながら、彼らを取り巻く差別や貧困という問題にもまっすぐに向き合って共に生きたと思います。そんなある日、彼女が特別にかわいがっていた小学校1年のコピラちゃんという小さな女の子の顔に赤黒い斑点が出来てぐったりしている様子を発見します。そして他の先生に「コピラ病気ですよね?」とたずねますと「これはピロという病気ですよ」という返事が帰って来ました。それで、どういう薬が良いのかを聞いてそれを買って、彼女の手をひいて家に行きますと、その家はそれまで訪れたどの家よりも貧しくて、食器や衣類が一緒に床に散らばって悪臭を放っているというような有様だったそうです。出てきた母親に「コピラ病気ですよね?」といいますと母親は「わたしたちは貧しいのだよ。お金もない。仕事もない。どうやって薬を買うのだ?」と言い返してきたそうです。コピラちゃんの家は一番低いカーストで、さらに母親は夫に逃げられ、女手一つで大勢の子どもたちを育てていました。掃除をしたり道端で物を売ったりして日銭を稼いで何とか生きていたのです。そんな母親に由美さんは、「薬買って来たよ」といって薬を渡すと、彼女は何の屈託もなく受け取ってくれたのですけれども、その帰り道で由美さんは深く落ち込んだそうです。こんなことをしても問題は何も変わらないという無力感と、自分がやっていることはそれこそ自己満足の偽善ではないかという後ろめたさと、それでも何とかしたい、けど何ともならないという悔しさが交錯したのだと思います。そのような中で、由美さんはそれまでの美術の授業のカリキュラムを変えまして、お土産の切り絵を作る技術を身に着けさせるという、職業訓練に近い授業にシフトするのです。美術の授業でそういうことをすることの是非については賛否両論あるでしょうけれども、きれいごとでは済まない厳しい現実に直面した彼女の一つの決断だったと思います。そんなふうに現地の人々の家庭の中にまで飛び込んで、一緒に泣いたり笑ったりしながら制作を続けた由美さんがもし今も生きていたら、何を語り何を描いていただろうと思うことがあります。それはもちろんわかりませんが、もしかすると彼女の生きる基本姿勢はかなり幼いころから定まっていたのかもしれません。

彼女が小学校3年生の時に作った「なかよしってなあに?」という絵本があります。タヌキが出てきて「なかよしってなあに?」と質問すると、キツネが出てきて「なかよしっておともだち」と答える。「おともだちってなあに?」とキツネが尋ねると「おともだちってあそびあいて」と猫が答える、というような、いろんな動物が出てきて問いと答えを繰り返す、かわいい絵本なのですけれども、こう続いて行きます。「あそびあいてってなあに?」「あそびあいてって、けんかあいて。」「けんかあいてってなぁに?」「けんかあいてってべんきょうあいて」「べんきょうあいてってなぁに?」「べんきょうあいてっていつもいっしょ」「いつもいっしょってどうして?」「いつもいっしょってだいすきどおし」「だいすきどおしってなぁに?」「だいすきどおしってゆずりあい」「ゆずりあいってなぁに?」「ゆずりあいって、クッキーをわけあうこと」「わけあうってなぁに?」「わけあうって、おなじかずのクッキー」「おなじかずのクッキーってなあに?」「おなじかずのクッキーって、なかよし」と最初に帰って来るのです。まだ小学校3年生の由美さんが、独り占めするのではなく「分けっこ」することが、きっと仲良しになる秘訣だと考えたということ。これは単純ですけれども、とても深い真理を含んでいると私は思います。旧約聖書の箴言の中にはこんな言葉があります。

「乾いたパンの一片しかなくとも平安があれば

いけにえの肉で家を満たして争うよりよい。」

また初めにお読みいたしましたようにイエス・キリストもこうおっしゃいました。「受けるよりは与える方が幸いである」。一部の人たちが独り占めをするのではなくて、「分かち合う」喜びを世界中の人たちがもっと深く味わい知ることができたら、この世界はずいぶん変わるのではないかと思います。そんなことを感じさせてくれる佐野由美さんの作品に出会えます「Gallery with」に、神戸にお越しの際は是非お立ち寄りください。

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