新しい一日のために

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聖書の言葉

主よ、朝ごとに、わたしの声を聞いてください。朝ごとに、わたしは御前に訴え出て、あなたを仰ぎ望みます。

旧約聖書 詩編 5編4節

弓矢健児によるメッセージ

「春眠暁(しゅんみんあかつき)を覚えず」という諺があります。「春の眠りは、夜が明けたことも気づかないほど心地よく、なかなか目が覚めない」という意味の諺です。皆さんはいかがでしょうか。

また、この4月、進級・進学した方、学校を卒業して就職をした方もおられると思います。そういう方の中には、朝が来て、新しい一日がはじまるのが待ち遠しい。楽しみだ。そんな気持ちで朝目覚める方もおられるでしょう。

しかし、私たちは、いつも気持ちが前向きで、元気な日ばかりではありません。朝起きるのが辛い、憂鬱だ。起きて学校に行く、会社に行くのがしんどい、不安だ。そんな気持ちになってしまうこともあります。

ご存じのように日本の国は、20年以上続く不景気の中で、格差が広がり、不安定な非正規雇用の労働者が増えています。その一方で競争や自己責任が強調されてきました。「あなたの生活が苦しいのは、あなたの努力が足らないからだ」、「あなたが貧しいのは、あなたの責任だ」、そんなふうに言われ続けてきました。本来ならば、公平を実現すべき政治もまた、格差を放置するような政策を続けてきました。その結果、日本は世界の中でも、多くの人が希望を持てないと感じるような社会になってしまいました。

2013年に、内閣府が、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、韓国、日本の七か国の若者(13~29歳)の意識調査をしました。それによると、「将来に明るい希望を持っている」と答えた若者の割合は、七か国中、日本が最も低く、わずか12.2%だったそうです。また、「どちらかといえば希望がある」という答えを合わせても、日本は61%程度で最下位です。

残念ですが、これが今の日本の現実です。このような希望の持ちにくい社会の中では、朝が来るのが待ち遠しい、新しい一日がはじまるのが楽しみだ、そんな気持ちで目覚めることのできる人は少数なのかもしれません。むしろ、多くの人が不安を抱え、辛い気持ちを抱えながら朝を迎えているのだと思います。

実は本日の聖書、詩編5編の作者もそのような不安を抱えながら朝を迎えていた人の一人です。この詩編5編の作者はイスラエルの王、ダビデだと言われています。ダビデはイスラエル王国の繁栄を築いた偉大な王です。しかし、ダビデの生涯は苦難の連続でもありました。彼がまだ王になる前、サウル王に仕えていた時は、サウルに妬まれ、何度も命を奪われそうになりました。そのために外国に亡命し、逃亡生活を余儀なくされました。イスラエルの王となった当初も、外国の侵略によって一時避難を余儀なくされました。また、晩年は、自分の子供にクーデターを起こされ、命からがらエルサレムから逃れたり、ついには、クーデターを起こした息子との戦いの中で、愛する息子を失うという悲劇も経験します。ダビデは先の見えない不安の中で、胸が張り裂けそうな痛みや苦しみを抱えながら、何度も朝目覚めたことでしょう。

この詩編5編は、ダビデがそのような悩みと苦しみの時を思い返しながら作った詩であると言われます。しかし、ダビデはこの詩で、ただ自分の不安な気持ちや苦しみの気持ちを歌っているだけではありません。ダビデはそのような苦難を経験しながらも、神に祈りをささげることを忘れませんでした。いや、悩みや苦しみが深ければ深いほど神に祈りました。それが聖書の中のダビデの詩編です。ダビデは、不安の中で目覚め、悩みを抱えながら一日を始めることも度々でした。けれどもダビデは、目覚めるたびごとに、「主よ、わたしの声を聞いてください」、と言って、朝ごとに祈りました。彼は主なる神に自分の不安を、自分の悩みを訴えたのです。そして、神もそんなダビデの祈りを、訴えを確かに聞いてくださったのです。そこに私たちの希望があります。そこに私たちが新しい一日を始める力の源があるのです。

聖書は罪によって堕落し、悲惨の中にある人間を救うために、神が御子イエス・キリストをこの世に遣わしてくださったと教えています。そして、罪なき神の御子が私たちの身代わりとなって十字架で死んでくださったと教えています。すなわち、キリストは私たちを救い、新しい命に生かすために、痛みと苦しみ、悩みと不安のすべてをあの十字架で経験し、三日目に死者の中から復活してくださったのです。

キリストはあなたの苦しみを、悩みをすべてご存じです。あなたが朝目覚めるたびに感じる不安や恐れをすべてご存じです。その上でキリストは、あなたと共にあって、あなたの悩みと不安のすべてを担ってくださいます。ですからどうか、あなたも朝目覚めるたびごとに、キリストを呼び求めてください。そして、あなたの思いを、あなたの悩みや不安をキリストに訴えてください。キリストはあなたの叫び声を確かに聞いていてくださいます。あなたの訴えを御心にとめてくださり、必ず答えてくださいます。

自分を取り巻く社会の状況が直ぐに良くなるわけではないかもしれません。しかし、朝ごとに、主キリストに祈り、自分の素直な思いを訴えることを通して、私たちは確かに新しい一日を生きる力を神から与えられます。

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