この世界の美しさ

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聖書の言葉

神はお造りになったすべてのものを御覧になった。見よ、それは極めて良かった。

旧約聖書 創世記 1章31節前半

吉田実によるメッセージ

おはようございます。但馬みくに教会の吉田実です。今回は、有名な画家フィンセント・ファン・ゴッホのお話をさせていただいています。フィンセントのお父さんはオランダ改革派教会の牧師でした。そしてフィンセントは、お父さんのような牧師になりたかったのです。けれども、一生懸命努力をしたのですけれども、気性の激しいフィンセントには、結局牧師になる道は開かれませんでした。そしてそんな挫折を乗り越えるために、彼は貧しい炭鉱の人々の姿を絵に描き始めました。絵を描くことで「お前は役立たずだ。お前に存在価値はない」と心に語り掛けて来る「暗闇の力」と戦おうとしたのです。そのようにして画家となることを目指して歩み始めたフィンセントは、やがて同じ志を持つ画家たちの共同体をつくることを夢見て、アルルに1件の家を借りて、先輩の画家ゴーギャンを招いたのです。今日はその続きです。恋人を待つようにフィンセントは、アルルの「黄色い家」でゴーギャンの到着を待ちわびました。しかし実のところ、ゴーギャンは最初からこの共同生活には乗り気ではなかったのです。彼は画商をしているフィンセントの弟テオの援助を受けながら自分の絵を売ってもらい、憧れの南の島に行くための資金を作りたかっただけでした。画家たちの共同体作りなどには最初から関心がなかったのです。まして気性の激しいフィンセントとの共同生活は重荷に感じていました。ですから、ゴーギャンが到着していよいよ共同生活が始まりましても、この二人がぶつかるのは時間の問題だったようです。そしてそんな二人の共同生活が2ヶ月を過ぎた頃、フィンセントはゴーギャンとの激しい喧嘩の後に、自分の左耳を切り取って顔なじみの娼婦に届けるという、常軌を逸した行動に出ます。驚いたゴーギャンはパリに帰ってしまい、フィンセントはサン・レミにある精神病院に強制的に入院させられてしまいます。フィンセントが夢見た画家たちによる「愛の共同体」は、あっけなくたった二ヶ月で破綻してしまったのです。何をやってもうまくいかないフィンセントです。

この病院の中でフィンセントは、院長の特別なはからいによってアトリエを持つことを許され、「糸杉」など多くの作品を残しました。そして彼の弟のテオは、繰り返し襲い来る精神錯乱の発作と戦いながら絵を描き続けるこの兄を、オーヴェールに住むガシェ医師に託します。しかし、熱心な美術愛好家でもあったガシェ医師との親しい交わりも長くは続かず、弟のテオ夫婦の深刻な言い争いにも遭遇したフィンセントは益々「自分さえいなければ」という思いにさいなまれていきます。そしてそんな孤独と悲しみを塗り込めるように、フィンセントは「カラスの飛ぶ麦畑」という作品を描きました。そしてその約十日後に、その同じ麦畑で、フィンセントは自分の胸に向けてピストルの引き金を引いてしまうのです。二日後、駆けつけたテオに向かって「泣かないでくれ。みんなのためを思ってしたことなんだ」と囁いて、フィンセントは37年の短く激しい人生を閉じました。信仰も家族も失い、人生に絶望し、生前には一枚しか作品が売れなかった「悲劇の画家」と思われることが多い、フィンセント・ファン・ゴッホの物語です。けれども、わたしはそんなふうには思わないのです。厳密にいえば、彼の最後の作品は恐らく「カラスの飛ぶ麦畑」ではなく「ドービニーの庭」なのです。この絵はとても明るくて、生き生きとした活力にあふれています。これが信仰を失い、人生に絶望した人が描く絵であるとは、わたしには思えないのです。フィンセントは神様が造られたこの世界の美しさを見つめながら、自分なりに一生懸命その美しさを描くことで最後まで生きようとした。「お前は役立たずだ。お前など生きている価値はない」と囁きかける暗闇の声と戦いながら、一生懸命描き続け、一生懸命生き続けようとしたに違いありません。でも最後は、たとえば癌という病気と闘って、最後は病の力に負けてお亡くなりになる人と同じように、フィンセントは「心の病」と戦って、最後にはその病の力に負けて、力尽きたのです。

教会は「自殺者の葬儀を挙げるわけにはいかない」と断り、彼の葬儀は下宿先の「カフェ・ラヴー」で友人たちの手でささやかに執り行われました。けれどもフィンセントの魂は天の父がきっと、しっかりと受けとめてくださったに違いありません。地上の父親にはついに褒めてもらえなかったフィンセントでしたが、天の父は「あなたはわたしが造った世界を、こんなに美しく描いてくれたじゃないか。忠実な僕だ、よくやった!」と、きっと褒めてくださったに違いないと、わたしは思います。そんなフィンセント・ファン・ゴッホの作品を、ぜひご覧いただきたいと思います。

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