“セレブ”の話

今年もあとひと月ちょっととなりました。今年は、経済的に本当に大変な一年でしたね。もう年の初めから次々と食料品の値段は上がる、電気代やガス代も上がる、おまけにガソリン代も驚くほど高くなって大変でした。あの“危険な暑さ”の夏でさえ、電気代節約ということで、クーラーをつけずにいて具合を悪くしたお年よりもいました。そんな大変な一年を振り返るこの時期に、「セレブの話」なんか聞きたくない、という方もおられるかもしれません。

確かに、今や日本だけでなく世界中で貧富の差が拡大し、お金持ちはいよいよ豊かになり貧しい人はいよいよ貧しくなるという経済的な不公平・不公正がいっそう広がったように思います。そのような中で、いわゆる大金持ちやブランドの服や宝石で身を固めたような有名人を「セレブ」と呼んで、テレビや雑誌などで取り上げられることもありますよね。まあ私ども一般庶民は「へぇ～」と思うだけで、およそ自分とは関係ない人々のように受け止めているのではないでしょうか。

日本でこの「セレブ」という言葉がはやり始めたのは、2000年に入ってからだそうです。つまり、バブルがはじけて就職の氷河期になり、もう安定した生活など夢物語になってきた頃ですから、やはり庶民の憧れという空気があったのかもしれません。けれども、私が初めてこのセレブという言葉を聴いたのは、1990年代のアメリカでした。当時、私も妻もアメリカに留学していたのですが、妻の学びが無事終了して卒業式を迎えました。すると、その時通っていたアメリカの教会の方々がささやかなお祝いをしてくださったのです。あちらの学校の勉強は本当にハードですから、卒業は誰にとっても大きなお祝いの時なのです。そのお祝いの時に――妻はトシコと言いますが――「今日はトシコにとって、お祝いの日だね。まあ言ってみれば、セレブということだ」とおっしゃいました。「セレブ」という言葉を始めて聞きましたが、要するにお祝いされる人、「セレブレーション」される人という意味なのだなと、私はその時自分なりに理解しました。

今日の聖書の言葉をもう一度見てください。「主は、喜びをもってあなたを祝い、愛をもってあなたを新たにし、喜びの歌をもってあなたに歓喜の声を上げる」。「主は、喜びをもってあなたを祝い」とあります。神様があなたを喜んで祝ってくださる。つまり、あなたは神様にとって「セレブ」になるんだよと、そういう言葉なのです。もう少し、説明しましょう。聖書では、イスラエルと呼ばれる人々は神の選びの民でした。ところが、その人々が神に対する誠実さを失い、神を言わば裏切ったために、イスラエルの精神的な中心であった神の都エルサレムが滅亡すると、ゼファニアという人が預言したのです。そして、事実、その預言どおりのことが起こりました。エルサレムの滅亡です。ところが、ゼファニアは、そのような神の審判を告げただけでなく、やがてこのエルサレムがもう一度神の都として回復される。その時には、もはやイスラエルの人々だけでなく、あらゆる民族の人々が主なる神を礼拝するために、この都に集まる日がくる。エルサレムよ、再び神はあなたと共にいてくださる、と預言したのです。今日ご紹介した聖書の言葉は、そのことを告げる言葉です。「主は、喜びをもってあなたを祝い、愛をもってあなたを新たにし、喜びの歌をもってあなたに歓喜の声を上げる」。ですから、ここでの「あなた」というのは、直接には新たにされる神の都のことを指していますが、そこに集まるあらゆる国の人々、この神を信じるあらゆる人々と理解することができるのです。

この世でセレブであろうがなかろうが、本当に貧しくて地を這うような生活をしていようが、この神は、心が真っ直ぐな人、真っ直ぐに神を求める人たちのことを祝ってくださる神です。時に、神様に叱られるようなことがあったとしても、決して見捨てはしない。「おめでとう！ よかったね」と、その人生を喜んで祝ってくださる。愛をもって、あなたを新しく作り変えてくださる。あなたが生きているだけで歓喜の声をあげてくださる神なのです。そして、その神の祝いの中へと私たち罪人たちを招くためにいらした方こそが、ゼファニアも預言した救い主、イエス･キリストなのです。

この一年、単に生活のやり繰りだけでなく、人生のやり繰りで大変な思いをされた方もおられることでしょう。華やかさとは無縁な、惨めでやり切れない思いに心ふさがれた方も、あるいはおられるかもしれません。しかし、この世界での本当のセレブとは、ほんのひと時、人々の注目を集めるような人々ではありません。そうではなく、この世を超える神によって祝っていただける人たち、神の救いの中を歩む人々のことです。まもなく迎える最後の１２月、そう、イエス・キリストの誕生を祝うクリスマスに向かって、私たちは神の救いを喜び、その神のセレブとなっている私たちを大いに喜ぶ時としようではありませんか。