”種”の話

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聖書の言葉

「天の国は、からし種に似ている。人がこれを取って畑に蒔くと、どんな種よりも小さいのに、成長するとどの野菜よりも大きくなり、空の鳥が来て枝に巣を作るほどの木になる。」

新約聖書 マタイによる福音書 13章31~32節

吉田隆によるメッセージ

先日は「塩」という調味料のお話をしましたね。で、この「調味料」のことを、英語で“シ-ズニング”と言ったりしますよね。で、このシーズニングという言葉の語源が、実は「種」すなわち“シード”なのです。ちょっぴり入れるだけで、一味違ってくるからでしょうか。ついでに言えば、季節という意味の“シーズン”という言葉も、種まきの季節ということから来ているそうです。確かに、種まきのタイミングを逃すと、育つものも育たなくなってしまいます。さらに、テニスや野球の試合などでよく“シード”されるなんて言いますよね。強いもの同士が最初から当たらないようにすることです。あれもこの「種(シード)」という言葉から来ているのだそうです。勝ち進んで十分育ってくるまで温存しておく、なんていうイメージでしょうか。

ということで、今日は「種」のお話です。イエス・キリストというお方は、聖書によれば大工の息子でした。大工さんでしたが、イエスのお話の中には、よく植物の喩えが出てきます。昔は、どの家でも、自分の家の庭先で少しの野菜や果物くらいは作っていたでしょうから、不思議ではないでしょうね。今日の聖書の言葉にも「からし種」というカラシの「種」のことが取り上げられています。このカラシが正確にどんな種類のカラシなのかは、よくわからないようです。一説には、シロカラシとも言われますし、クロカラシという人もいます。いずれにしても、小さな小さな種が、大きく育つという喩えですね。

実は、イエスは、この喩えに続けて、もう一つの喩えを語っておられます。「天の国はパン種に似ている」と言って、パン種、こちらは本物の「種」ではなくて「イースト菌」のことですが、日本語では、どちらも種。そして、いずれも、とっても小さな物が大きくなっていく、というか、大きく成長させる力を持っているという比喩として用いられています。で、興味深いのは、これらの喩えを用いて、イエスが「天国」のことを教えておられるということです。「天の国はからし種に似ている。パン種に似ている」と仰ったのです。

「天の国」というのは、「天国」のこと、神様の国のことです。「天国」と言えば、空の彼方にあって、お花畑があるようなキラキラ輝く綺麗な所なんていうイメージを、多くの人は抱くのではないでしょうか。ところが、その天国を知っておられるはずの神の御子イエス・キリストが、「天国」というのは「からし種のようなものだ。パン種のようなものだ」と仰るのですから、ちょっとショックかもしれません。「えぇっ?からし種?パン種?」と、ハテナマークがいくつも付きそうです。「天国って、そんなに小さいの?それがどんどん大きくなるって、どういうこと?」と。

少し説明しますと、ここで言われている「天の国」というのは、実は場所のことではありません。神様のご支配、あるいは神の力、神の働きと言った方がわかりやすいでしょう。神のお働きというのは、最初はなんだか気づかないほど、小さな小さなカラシ種やパン種のようなものかもしれない。けれども、それが不思議にもどんどんどんどん大きくなっていく、というのです。カラシ種は、空の鳥が宿るほどになるというのですから、大きく外に広がって行くというイメージですね。それに対して、パン種は、内側からふくれてくる、内側に働く力と理解することもできます。これを、一方では、歴史の中で世界中に広がってきたイエス・キリストの教会、もう一方では私たちの心の中に働く神の力、と理解することもできるでしょう。

カラシ種にしても、パン種にしても、あんな小さな物の一体どこにそんな力が宿っているのだろうと、不思議でなりません。それはまるでマジックのような、まさに奇跡のような働きです。そう、「天の国」は、この世とはかけ離れた、どこか遠い空の彼方にある場所のことではなくて、むしろ私たちのこの世界の“ただ中”に働く、いえ、こんなちっぽけな私の中でさえも働く神の力なのです。その「種」とは、神の言葉と言ってよいでしょう。私たち人間に真に生きる道を指し示す、小さな小さな聖書の言葉を心に留める、そして、その言葉を小さな私の心が信じて生きる。その時、私たちの内に外に、神の力が働き始める。神の奇跡が起こり始めます。

大切なのは、どんなに小さくてもこの「種」を宿すことです。けれども、「種」があれば自動的に芽が出るわけではありません。神様には神様がお決めになった「時」、シーズンがあるからです。また、すぐに成果を期待してもいけません。植物が不思議にもゆっくりゆっくり大きくなるように、神の力もまたゆっくり働くからです。そうして、やがて、私たちの人生が大きく変わっていることに気づく。「私」の世界が、「神」の世界、「天の国」へと変えられて行くのです。

さて、この美しい季節にふさわしいのは、どんな野菜の種でしょう?あの小さな「種」から起こる奇跡を観察するのも楽しいですね。あっ、皆さんの心に、神の言葉の種をまくこともお忘れなく!

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