”塩”の話

さて、６月も後半です。初夏もすぎて、気がつけば夏至もすぎて、いよいよこれから本格的な夏ですね。夏と言えば、スイカ。皆さんの中には、もう初物を召し上がった方もおられるでしょうか。このスイカ、最近は初めから、甘いか甘くないかわかっているものが多いですが、昔はコンコンコンと外から叩いた音の具合で、おいしいかどうかを当てたりしましたよね。で、たとい少々大味でも、少しだけ塩を振って食べる。すると、何とそんなスイカも甘くなる。あれは実に不思議で、子供にとっては魔法のようでした。

このお塩。塩は人間が生きていく上で不可欠ということで、かつては専売制度になっていました。ところが、今は自由化によって、いろんな種類の塩が出回るようになりました。海水塩から岩塩まで。同じ海でもどこどこの海の塩と、ブランドがたくさん増えましたね。また、岩塩でもヒマラヤもあればモンゴルやアンデスの塩まで。塩のでき方や製法、塩が含んでいる成分によって味も微妙に異なるようで、漬物にはこの塩、ステーキにはこのタイプと、使い分けるのだそうです。

で、この塩の売り文句なのですが、実は、消費者に誤解を与えないようにと、決まりがいくつかあるそうです。例えば、「天然」とか「自然」というような表現。天然塩(えん)とか自然塩という表示はNG。これは、何となく「健康によさそう」という誤解を与えるのでダメだそうです。それから、「ミネラル豊富」とか「ミネラルたっぷり」などという表示。これもどこかで見たことがあるように思うのですが、本当は禁止だそうです。なぜなら、塩の中心的成分のナトリウムもミネラルの一つであるため、ほとんどナトリウムだけでも、「ミネラルたっぷり」になるからだそうです。なるほど。では、皆さんに質問です。「ミネラルたっぷり！」はいけないそうですが、「しょっぱくないお塩！」いや、「塩気の全然ないお塩！」といううたい文句はいかがでしょう？それでは「塩じゃないじゃないか」と言われるでしょうね。そのとおり！それが今日の聖書の言葉です。

「あなたがたは地の塩である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられようか」。聖書の世界のパレスチナという所には、塩の湖として有名な死海がありますが、人々が食卓で使っていたのは、その近くで取れる岩塩だったそうです。岩塩というのは、塩化ナトリウムの塊になっている岩石のことですが、「地の塩」というのは、まさに岩塩のことですね。この岩塩、通常の食塩に比べると味がマイルドで料理をやさしい味にしてくれる、と書いてありました。やさしい味ならいいのですが、やさしすぎてというか、全く塩味のしない「岩塩」ならどうでしょうか？それでは、岩「塩」ではなくて、ただの「岩」にすぎなくなってしまいます。ですから、そんなものは「外に投げ捨てられ、人々に踏みつけられるだけである」と言われているわけです。

ところで、このたとえを語ったのは、イエスというお方ですが、イエスは「あなたがたは」と言われました。「あなたがたは地の塩である」と。この場合の「あなたがた」とは、イエスの教えを聞いて信じた人たち、イエスの弟子たちのことです。実は、この言葉が出てくるのは、「さいわいなるかな」という言葉から始まる、有名なイエスの山上の説教です。「心の貧しい人々は、幸いである、天の国はその人たちのものである。悲しむ人々は幸いである、その人たちは慰められる」と。ちょっと私たちの常識とは違った幸福観、人間にとっての本当の幸せとは何かを、イエスが教えておられるところです。で、そのようなイエスのお言葉を聞いた「あなたがた」は「地の塩」であると、イエスは言われたのです。

この場合の「地」というのは、単に岩塩が埋まっている地下のことだけでなく、世界全体のことを指しているのでしょう。人間が生きる世界全体、人間社会全体を味付けする。あるいは、その腐敗を防ぐという意味もあるかもしれません。人間が人間らしく生きるため、また人間が本当に味わい深い人生を生きるために、必要な「塩気」。それこそが、このイエスの言葉に生きること、なのですね。イエスというお方を信じる心と言ってもいいです。それが、人生を味わい深くする。この世界に生きる喜びを与えるのです。ですから、もしその「塩気」を失ってしまったら、何の意味もなくなってしまう。せっかくイエスの言葉を聴いても、その言葉に生きなければ、何の効果もないまま終わってしまう、ということなのです。

塩は、人間が生きて上で不可欠なものです。ちょっとの塩で、スイカも料理もおいしくなります。人間にとってのイエスの言葉も同じです。イエスのお言葉は、人間が生きるために不可欠な言葉、まさに私たちの心の命を支える、正真正銘「天然」の、つまりは天からの言葉、「ミネラルたっぷり」の言葉です。その御言葉に生かされて、いつまでも塩気を失わない人生を歩んでまいりましょう。