食欲の秋

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聖書の言葉

肥えた牛を食べて憎み合うよりは、青菜の食事で愛し合う方がよい。

旧約聖書 箴言 15章17節

吉田隆によるメッセージ

さて、秋といえば、なんと言っても、食欲の秋ですね。食べる意欲も無くなりそうな夏の暑さも去って、身も心も元気を取り戻す頃。俄然、食欲もモリモリ湧いてくる、ということなのかもしれません。でも、ついつい食べ過ぎて、という心配もあるかもしれませんね。人間がお腹いっぱい食べることは、必ずしも悪いことではありません。聖書によれば、人間を造られた神様は、人をエデンの園に置かれた時に、「園にあるすべての木から取って食べなさい」とおっしゃいました。それはまるで、子どもの喜ぶ顔を見たいがためにバイキングに連れて行って、「ほぅら、何でも好きな物を食べていいよ」と言う親に似ています。

けれども、この人間が生きていく上で最も基本的な食べるという行為は、同時に人間にとって罠となることもありますね。聖書にもいくつかそうした話が語られています。ご存知のように、先ほど申しましたエデンの園に置かれた人間が、たった一つ、食べてはいけないと命じられていた禁断の木の実を取って食べてしまった、あの出来事もそうですね。あるいは、エサウとヤコブという双子の兄弟の物語で、神の祝福を失ってしまった兄エサウの失敗は、たった一杯の食物が原因でした。さらに、そのエサウに祝福を与えそこなった父親のイサクもまた、自分の好きな料理食べたさに過ちを犯したのです。いずれの場合でも、問題は、食べること自体なのではなくて、食べることよりももっと大切なことを見失ったことに原因があるようです。

では、食べることよりも大切なこととは何でしょうか。皆さんもよくご存じの、「人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる」という聖書の言葉があります。パンは私たちのお腹にとって大切ですが、しかし、人間が生きるのはそのような肉体的な命だけではない、ということなのでしょうね。人間が本当に人間らしく、心豊かに生きるためには、その“心を養う”食物が必要だということです。そして、そのように、人間が人間らしく豊かに生きていくために必要な“心の食物”、それが神の言葉である聖書なのですね。食欲の秋も大切ですが、読書の秋も大切だ、ということでしょうか。いえ、体の食欲のためでなく、“心の”食欲の秋にしましょう、と言った方がいいかもしれません。

さて、それでは、聖書の言葉は、どのようにして私たちの心を養ってくれるのでしょうか。時に聖書は、人が陥ってはいけない過ちを教え、人が生きる道、人のあるべき姿を教える厳しい言葉もあります。あまりおいしくはないかもしれませんが、健康のために食べるというのと同じですね。けれども、聖書が私たち人間の心を本当に豊かに養うと言われるのは、その言葉に愛があるからです。私たちに愛ということを教えてくれるからです。私たち一人ひとりが神に愛されている存在だということ、そして、愛された私たちもまた互いに愛し合って生きること、それを教えてくれるのが聖書の言葉だからです。

こんな言葉が聖書にあります。「肥えた牛を食べて憎み合うよりは、青菜の食事で愛し合う方がよい」。何千円もするような高級な牛肉ステーキをたらふく食べても、互いに憎み合っているなら、何にもならない。それなら、むしろお肉など食べられない貧しい食卓であっても、互いに愛し合っている方がよっぽどいいと。これが聖書の価値観です。

「一人で食べてもおいしくないけど、皆で食べるとおいしいね」と感じることはないでしょうか。これは、私たちの実感ですが、実はちゃんと科学的な根拠もあるのだそうです。ある実験で、一匹で食べているお猿さんと、ほかの猿と食べ物を分かち合っている猿とでは、オキシトシンと呼ばれる「愛情ホルモン」の出方が5倍も違っていたそうです。人間が「おいしい、おいしくない」と感じるのは、どうやら味や見た目といった体の感覚よりも、心が判断することらしいのです。確かに「青菜」だけではお腹はいっぱいにならないかもしれません。けれども、もし私たちが仲睦まじく食べるなら、私たちの心は5倍も幸せに満たされる。聖書の言葉は真理です。

そう言えば、イエス・キリストは、地上でのご生涯で、何度となく仲間はずれにされていた人々と一緒に食事をしました。その時のメニューは書いていません。豪華な食事も貧しい食事もあったことでしょう。けれども、大切なことは、このイエスというお方によって、私も大事にされている、愛されていると、皆が感じて喜びにあふれて食べた食事は、この世のものとは思えないほど、おいしい食事であったに違いないということです。

コロナ禍がもたらした問題はいくつもありますが、その最も大きな問題の一つが、人とのコミュニケーション、交わりの欠如です。一緒におしゃべりをする、一緒に食べるということが奪われました。私たちの心の「愛情ホルモン」がどんどん枯渇していく。これが最大の問題です。感染に気をつけるに越したことはありません。けれども、私たちの心の栄養、心の健康まで奪われてはいないか。そのことに、私たちは注意したいと思います。食欲の秋です。皆様が、この秋、そのような“心の食欲”をいっそう豊かに満たすことができますように、心からお祈りしたいと思います。

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