小ささ弱さという賜物に気づく

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聖書の言葉

「あなたがた皆の中で最も小さい者こそ、最も偉い者である。」

新約聖書 ルカによる福音書 9章48節b

吉田実によるメッセージ

いきなり私事で恐縮ですが、私は先日とっても嬉しいことがありました。息子が通う施設の職員の方が、息子が描いた絵を届けてくださったのですけれども、そこにはあきらかに「お父さんとお母さん」らしき二人の人物の顔が描かれていたのです!息子は25歳ですけれども、重度の知的障害を伴う自閉症者で、これまで何度絵を描くように勧めましても、殴り書きしか出来ませんでした。そんな彼が、何も見ずにさっとその絵を描いたというのです。職員の方からそのお話を聞きまして、私たち夫婦は本当に喜びました。「あぁ、彼の心の中には私たちの姿がちゃんと刻まれているのだ。ちゃんと愛が伝わっているのだ。そして彼も彼なりに、ちゃんと成長しているのだ」。そうわかりまして、25年間彼に寄り添い続けてきたことのご褒美をいただいたような気がして、本当に嬉しかったですし、大きな励ましをいただきました。そして、一見何もわかっていないかのように見られがちな彼のような弱い立場の人には、実はとても大切な役割と賜物が神様から与えられているのではないかということを、改めて思わされたのでした。

先ほどお読みいたしました聖書の個所の初めのほうを見ますと「弟子たちの間で、自分たちのうちだれがいちばん偉いかという議論が起きた」と書かれています。イエス様がローマ帝国を打倒してダビデ王のようなユダヤの王になられた時に、その左右の座につくのは誰か。自分はどのあたりの位置にいるのだろうか。できることなら、イエス様の右の座に就きたい!弟子たちはそういうことを考えていたのです。それは人の存在価値を能力の高さではかろうとする、この世の価値観の悪影響を弟子たちが受けていたという証です。そしてそのことを見抜かれた主イエスは一人の子どもの手を取り、御自身のそばに立たせて言われました。「わたしの名のためにこの子供を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。わたしを受け入れる者は、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。あなたがた皆の中で最も小さい者こそ、最も偉い者である」。当時、子供はうるさくて一人前に育つかどうかわからない、弱くて価値の低い存在と見なされていました。そして悪魔的な暗闇の力が支配するところでは、そういう弱くて小さな人々に犠牲が強いられやすいのです。ですから「神の国」すなわち神様の愛と正義のご支配をもたらすためにこの世に来られた主イエスは、病をいやし、悪霊を追い出し、人々から軽んじられやすい子どもや罪人と呼ばれる人たちを招かれました。それは神の国到来のしるしでした。そしてそういうイエス・キリストが「あなたがた皆の中で最も小さい者こそ、最も偉い者である」と言われました。「だれがいちばん偉いか」と言いながら少しでも上に立とうとする弟子たちに対して、全く正反対の価値観に生きることをお命じになったのです。人間の命の価値は、機械や動物のように能力や生産性ではかられるものではなくて、神様によって神にかたどって造られたということ自体にその大切さ、かけがえのなさの根拠があります。ですから主イエスは、そんな一人の人間が弱さ小ささのゆえに軽んじられ、粗末に扱われることを望まれません。かえって一番偉い人のように大切にされることを望まれます。ですから、色んな力を与えられている者たちは、他人との競争に打ち勝って上に登るためにその力を用いるのではなくて、「最も小さい者」が犠牲にならないように、そういう人々を守るためにこそ、その力を用いなければならないのです。その時に、一部の人たちだけがちやほやされるのではなくて、みんなが大切にされて守られる共同体が生まれるはずです。人はみな弱さを持っていますし、今元気な人も、いつかは弱るときが来るからです。そういう意味では、一つの群れの中の最も弱い立場の人が守られて、生き生きと喜んでそこにいるかどうかということが、その共同体の質を測るバロメーターであると言えます。その共同体が、人を能力や生産性ではかろうとする悪魔的な力に支配されているか、それとも神様の愛と正義のご支配に服しているかを示すバロメーターです。我が家の息子のような弱い立場の人の存在は、実はそういう大切な役割と賜物を与えられた人であるに違いないと私は思います。私たちがそのことに気づいて、配慮が必要な小さな人、弱い立場の人との出会いと交わりを大切にするとき、「かわいそうだから」という上から目線からではなく、同じように神様によって造られた大切なあなたと大切な私という対等の関係の中で真の友となるとき、そこに神の国が来る。助けることと助けられることを学びながら、本当の意味で人間らしい、共に生きる共同体がそこに生まれるに違いありません。

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