咲くや、この花

春が近づいています。今年は寒波の影響もあり、厳しい寒さが続きました。冬が終わると思うとほっとされる方もおられるのではないでしょうか。

春と言えば、最近知った和歌があります。「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今を春べと 咲くやこの花」

関西にお住まいに方なら一度は聞いたことがあるかもしれません。この和歌の意味は、「この花は、浪速の地に咲くだろう。冬ごもった後、いまは春となったと咲くのだ、この梅の花は」となります。梅が咲くということとこの句の受け手にあたる人物の繁栄と祝福とが結び合わされています。ちなみにこの和歌から、大阪の浪速区と此花区の名前が取られたと言われています。

私は冬ごもりの後、花が咲く、という部分が好きです。寒い冬の間、冷たい風に耐え、耐え抜いた後、葉を茂らせ、花を咲かせるイメージです。

私はメダカを飼っています。いまメダカは越冬している最中です。メダカは、冬の期間、餌も食べずにじっと耐えます。どんなに寒くても、水槽に氷がはっても、じっと待っています。あるとき、動かないメダカを見て「まさか！」と思ったときもありましたが、ちゃんと生きていました。越冬したメダカは、強くなると言われています。厳しい寒さは危険もありますが、長い目で見たら生命力を蓄える大切な期間でもあるのだと思います。

メダカだけではありません。私たち人間もそうかもしれません。越冬、それは季節のことだけではなく、人生の試練や苦しみのことと重ねてよいでしょう。冬は決して心地がよいわけではありませんけれども、厳しい寒さがあることで、やがて春には花を咲かせる、そういうことがあるのだと思います。その花は自分の力だけで咲かせることができるわけではありません。

今日の御言葉には、「荒れ野よ、荒れ地よ、喜び踊れ。砂漠よ、喜び花を咲かせよ。野ばらの花を一面に咲かせよ。花を咲かせ大いに喜んで、声をあげよ。砂漠はレバノンの栄光を与えられカルメルとシャロンの輝きに飾られる。人々は主の栄光と我らの輝きを見る」とありました。神様が花を咲かせてくださる、という約束の言葉です。

少し言葉の背景をお話しますと、これは旧約聖書の時代、イスラエルの民に神の言葉を語った預言者イザヤの言葉です。この当時、イスラエルはバビロン帝国に滅ぼされ、主だった人々はみな捕らわれてしました。ところが７０年を過ぎた頃に、バビロン帝国は滅ぼされ、イスラエルの人々は解放され、パレスチナへ帰還することになりました。彼らにとって帰還はうれしいことですが、その旅路は１０００キロ以上も険しい道を歩かなければならないというものでした。そのふるさとへの帰還を、イザヤは希望あふれる言葉で描き出したのです。

「荒れ野よ、荒れ地よ、喜び踊れ砂漠よ、喜び、花を咲かせよ。野ばらの花を一面に咲かせよ。」なにか気持ちが明るくなるような光景ではないでしょうか。ふるさとに帰る荒れ野が、緑や花がいっぱいで豊かな道となる、とイザヤはうたいました。イスラエルの人々にとって、バビロン捕囚が冬だとしたら、ふるさとへの帰還の旅は春なのだ、花を咲かせていくのだ、というのです。

ただバビロンからの帰り道が、ここにイザヤが語るほど本当にすばらしかったのだろうか、ということも思います。旧約聖書の預言者は、不思議な人たちでもうすぐやってくる救いを語るときに、もう本当に神様のすばらしさが全部あらわれたような仕方で語ります。そうやって語られる預言者の言葉は、やがてその先で神様が全部の力を振り絞って救おうとするすばらしさ、もう少しあとでやって来る救いを指すような言葉となっていったのであります。

つまり、救い主イエス・キリストによって実現する救いのことです。主イエスがくださる祝福とは何でしょうか。主イエスはバビロンからの救いではなく、罪から私たちを救う、十字架によって滅びから私たちを救うお方です。パレスチナの旅ではなく、天国に至る旅を主イエスは祝福のうちに保ってくださるお方です。この主イエスがわたしたちの人生の荒れ野に花を咲かせてくださる。冬ののち、春を与えてくださるのです。

主イエスが与えてくださる花は、地上の繁栄をはるかに超えた、天国の祝福です。苦しみの中を歩む私たちは、厳しい冬にこそこの祝福の約束を頼りとしながら、十字架の主イエスに心を向けたいと思います。主イエスは必ず春を与えてくださいます。天国の花を咲かせてくださいます。どうか主イエスを信頼し、歩むあなたの人生の旅路が豊かなものとなりますように。