梅雨明けまだかな?②

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聖書の言葉

キリストと結ばれる人はだれでも、新しく創造された者なのです。古いものは過ぎ去り、新しいものが生じた。

新約聖書 コリントの信徒への手紙二 5章17節

吉田隆によるメッセージ

さて「梅雨明けまだかな」と題したお話の2回目です。お天気が好きな私は、どうもこの梅雨のシーズンが苦手でなかなか好きにはなれなかったのですが、もう何年か前から小さな畑をやるようになってから変わりました。畑は、春に種をまいたり苗を植えたりすると、あとはひたすら草抜きと水遣り、それから虫取りですよね。特に、水遣りを怠ると、あっという間に枯れてしまう時もあります。その点、雨の日はまさに天からの恵みですね。「晴耕雨読」とは、うまいことを言ったものです。晴れの日には畑に出て、雨の日は天の恵みに任せて、ゆっくり家で本を読む。これはこれで、なかなか優雅な生活です。

ということで、今回は、本の話です。私は、昔から絵本が大好きで、今でも図書館などに行くと絵本のコーナーでしばらく時間を過ごすことがあります。数ある絵本の中でも『はらぺこあおむし』は有名ですよね。皆さんも良く御存知だと思います。この絵本、1969年に誕生したそうですが、つい先日、作者のエリック・カールさんが亡くなったので、再び脚光が集まるようになりました。お話は、いたって単純。小さな卵から生まれた青虫が、毎日毎日、いろんなものを食べて、どんどん大きくなって、最後はさなぎから蝶々になっておしまいという、ただそれだけの話です。

けれども、実に透明感溢れる鮮やかな色づかいと、毎日青虫が食べた所に本当の穴が空いて行くという“仕掛け”が施されている点、また日曜日に生まれた青虫が月曜日・火曜日と、毎日毎日一つ二つとだんだんと食べる数が増えて行くことで曜日や数字を覚えられるという教育的配慮、そして何と言っても食べ物がリンゴやナシ、イチゴやオレンジ、最後はケーキやキャンデーやアイスクリームなど、子どもたちの好きな食べ物ばかりが描かれて、土曜日には食べすぎてお腹を痛めてしまうという、まるで人間の子どものような青虫の物語が受けるのでしょう。そうしてお腹が痛くなった青虫は、しかし、次の日、体に良い葉っぱを食べてお腹も治り、さなぎになって、最後は大きく美しい蝶々になって羽ばたいて行くというエンディングもまた、子どもたちだけではなく読む人みなに幸せな思いを与える本になっていると思います。最近は、『はらぺこあおむし』の歌や振り付けまであって、小さな子どもたちが大きな声で「月曜日、リンゴを一つ食べましたぁ」と歌っているのは、何ともほほえましい姿です。作者もさぞかし喜んでいたのではないでしょうか。

さて、この絵本の作者のエリック・カールという人がアメリカ生まれの絵本作家であることはずっと前から知っていましたが、ご両親がドイツからの移民で、家族ともどもエリックが6歳の時にドイツに戻り、第二次世界大戦の間、高校生になるまでドイツで過ごしていたということは知りませんでした。ナチスドイツは、印象派以降の近代絵画を退廃的として弾圧を加えましたが、そのような芸術政策を無視して、子どもたちに絵画の素晴らしさを教えていたのが、エリックたちの先生だったそうです。多感な成長期の子どもたちに、食べる物も見る物も制限して、戦争という一色で塗りつぶしていった時代に対する反省なのでしょうか、美味しいものをたくさん食べて、最後は色鮮やかな蝶になって自由な世界に羽ばたいていく青虫の姿には、実に深いメッセージが込められているようにも思うのです。

ところで、この青虫、土曜日の夜に産み付けられた卵から日曜日の朝に生まれたのです。そして、一週間あれこれ食べながら、土曜日に好き放題食べてお腹が痛くなり、でも再び日曜日に葉っぱを一杯食べて元気になるというお話でした。絵本をあまり深読みする必要はありませんが、これはまさにキリスト者の、あるいは教会に通う子どもたちの一週間そのものではないかなと、改めて読んだ時に思いました。日曜日の教会の礼拝は、ある意味で、罪深い私たちがイエス・キリストによって赦されて、新しい命をいただいて一週間を始める日です。「キリストと結ばれる人はだれでも、新しく創造された者なのです。古いものは過ぎ去り、新しいものが生じた」。先ほど、お読みしたとおりです。ところが、一週間の内にいろいろあって、好き放題に生きて過ちを犯したりして、土曜日までには本当に弱ってしまう(説教がなかなかできない牧師も土曜日にはお腹が痛くなります!)。とにかく、そんな傷ついた心と体をもって日曜日を迎える。でも、日曜日にもう一度、礼拝に出て、イエス・キリストの福音という魂の食べ物をいただくと、心が元気になって、身も心も健やかにされて、また一週間を歩み出す。これが実に、人間にとって大切な、本質的に重要な一週間の歩み方なのではないでしょうか。

雨が降る日だけでなく、聖書という本は、一生読み続けてまいりましょう。日曜日ごとに、礼拝に出て、イエス・キリストの福音を聞き続けて、身も心も健やかにされましょう。そうすれば、まるで青虫のように、地を這うようにして生きる私たちでさえも、やがて美しく生まれ変わる時が来るでしょう。そして、梅雨明けの大空に向かって、自由に飛んで行く蝶のように、私たちもまた天の栄光の御国にはばたく時が来るでありましょう。

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