人間らしい生き方とは

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聖書の言葉

「そこで、王は答える。『はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである。』」

新約聖書 マタイによる福音書 25章40節

吉田実によるメッセージ

但馬みくに教会の吉田実です。私は昨年の春に神戸から兵庫県養父市に引っ越しまして、大屋町由良と言うところに住んでいるのですけれども、引っ越しの際に一番心配したことは、自閉症の息子のことです。我が家の24歳になる長男は重度の知的障害を伴う自閉症者なのですけれども、自閉症者にとって最も苦手なことは「環境の変化」なのです。物の位置が少し変わるだけでもパニックを起こすことがあるくらいですから、引っ越しをして今までの環境と全く違う生活が始まった時に果たして彼が適応できるのかどうか。そのことを一番心配したのです。実際引っ越してきた当初の彼は、毎日のように「もうお家に帰ろう」と荷物を詰めたバッグを持って来てアピールをしました。けれども、こちらの教会の方々に温かく受け入れていただいて、こちらのおいしいものを食べて、美しい自然の中を毎日お散歩する中で次第に彼は落ち着きまして、今では朝夕の散歩と、その後に色紙を細かく切って張り付けるコラージュ作品づくりが彼の毎日のルーティンとなっています。そしてそんな彼に毎日寄り添いながら、私自身が今まで気付かなかった色んなことに気付かされています。私が思っていた以上に彼は色んなことが分かっていて、色んなことを感じながら、また喜びながら、豊かに生きているのです。そしてこの発見は、決して小さなことではないと思うのです。そういう彼の豊かさに気付くことが他でもない自分自身の豊かさにつながっていますし、反対に彼のように自分では声を上げられない小さな弱い立場の人たちが置き去りにされるような社会は、さらに多くの人たちを置き去りにする、人間としての深刻な貧しさに繋がると思うからです。

人は誰でも、生きがいのある人生を歩みたいと思っていますし、ただ良い暮らしがしたいだけではなくて、自分なりの役割を果たして何か人の役に立ちたい。自分を超える大きな大切なことのために自分の人生を捧げたい。そういう願いを持っているのではないでしょうか。けれども、それが何かわからない。何に人生を懸けたらよいのかがわからない。それどころか、いつの間にか何か大きな暗闇の力に飲み込まれて行くような、自分自身が食い物にされているような無力感に襲われている人は少なくないのかもしれません。最近話題になりました「鬼滅の刃」と言うアニメや、やはり人気がありますアニメの「進撃の巨人」や「約束のネバーランド」といった作品はいずれも、鬼や巨人に人間が食われる、ということが一つのモチーフになっています。そういう人を食い物にするような「暗闇の力」に打ち勝って、人間らしい普通の生活を取り戻したい。そんな願いが作品に共通しているように思います。それは現代を生きる人間の切実な叫びなのかもしれません。いくら働いても貧しさから抜け出せなくて、格差は広がるばかりで、将来に夢や希望を思い描くことが難しい。これは社会全体がどこかおかしいからではないか。自分たちは何か大きな怪物に飲み込まれているのではないか。そんな暗闇の支配から解放されて、のびのびと人間らしく生きたい。そんな叫びが、人気アニメのテーマに反映されているような気がしてなりません。そしてそんな暗闇の力を打ち破るのは、特殊な訓練を積んで特殊な剣を振う特別な戦士たちではなくて、もしかするとこの世の価値観とは違う生き方を小さなところから実際に始める、普通の人たちなのかもしれません。

新型コロナウィルスの発生源である中国の武漢で、日々起こることを日記に書き続けて発表をした女性作家のファンファンさんはこう語りました。「一つの国が文明国であるかどうかの基準は、高層ビルが多いとか、車が疾走しているとか、軍隊が強いとか、科学技術が発達しているとか、そうしたことではない。基準はただ一つしかない。それは弱者に接する態度である」。本当に人間が人間らしく生きるためには、弱者を食い物にしながら自己増殖を続けるようなシステムとは正反対の生き方を、ささやかでも実際に歩み始めることにあるのかもしれません。イエス・キリストは「わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」とおっしゃいました。そこから「暗闇の支配」ではなく「神様のご支配」が始まるのです。是非、お近くのキリスト教会を訪ねてみてください。弱く小さな人の存在を一番大切にすることによって暗闇の支配に風穴を開けようとしている、誰も置き去りにしない、心優しき戦士たちとそこで出会えるに違いありません。

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