ヨセフから見た処女降誕

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聖書の言葉

母マリアはヨセフと婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。

新約聖書 マタイによる福音書 1章18~19節

岩崎謙によるメッセージ

クリスマス、おめでとうございます。今年は、二回にわたって、救い主・イエス・キリストが乙女マリアよりお生まれくださったことに思いを馳せます。通常、処女降誕と呼ばれている出来事です。今回は、ヨセフの立場で考えてみます。

今日お読みした聖書には、「身ごもっていることが明らかになった」とあります。これは、マリアのお腹が大きくなってきた、ということです。妊娠していることは、間違いありません。この時のヨセフにとっての問いは、処女が赤ちゃんを産めるのか、という抽象的なものではありません。マリアの妊娠は、ヨセフとマリアの間の信頼関係そのものを揺り動かす出来事です。お腹の大きくなったマリアは、いつもと変わることなく、ヨセフに接していたでしょう。ヨセフが、マリアが自分を愛していることを疑うことができません。しかし、マリアが妊娠している事実は、ヨセフにとって、マリアがヨセフを裏切ったこと以外のなにものでもありません。ヨセフは、マリアを信じたかったでしょう。そうであっても、マリアが妊娠した以上、ヨセフは、マリアを以前と同じようには愛せなくなりました。

それでヨセフは、密かに縁を切ろうと決心しました。縁を切るとは、婚約破棄をするということです。婚約は公ごとですので、ヨセフがマリアとの婚約を破棄したなら、必ず、人々が知ることになります。誰にも知られずに、密かに婚約を破棄する、などありえません。密かに縁を切るとは、縁を切る理由を公にしないで、という意味です。離縁した後、マリアが赤ちゃんを産むとしたら、社会の人は、ヨセフの子と思うでしょう。すると、人々の非難は、マリアよりも、理由もなくマリアと縁を切ったヨセフに向けられることでしょう。そのことを承知の上でヨセフは、理由を伏せて、一方的に縁切りを宣言しようと考えました。

ヨセフがこのように思うに至った経緯を、聖書は丁寧に説明しています。一つは、彼は「正しい人であった」ということです。もう一つは、「マリアのことを表ざたにするのを好まなかった」ということです。ヨセフは、正しい人でしたので、自分のあずかり知らぬ子どもを、自分の子であると嘘をついて、その子の父親になることはできませんでした。同時に、マリアの子は、自分の子ではないと、ヨセフが宣言すれば、マリアが姦通したことになります。その場合、マリアは姦通罪で、石打ちの刑になり、死ぬことになります。そのような目にマリアを遭わしたくありませんでした。正しい人であり優しい人でもあるヨセフが考え抜いた結論は、自分が悪者になり、密かに離縁することでした。

このように考えていると、主の天使が夢に現れて言いました。

「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。」このすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」

夢に現れた天使は、目の前の現実、つまり、マリアの妊娠は、旧約の預言の成就であると告げました。そして、ヨセフは天使のお告げを信じ、マリアを受け入れます。マリアを信じていいんだと確信し、マリアを信じることができる喜びで胸躍らせ、マリアから生まれる子どもを自分の子どもとして受け入れました。

もし、マリアが、自分でヨセフに、「わたし、救い主を生むので、処女降誕したの」と告げたとしたら、ヨセフは信じたでしょうか。通常の感覚では、このようなことを人に告げられても、素直に受け入れることはできないでしょう。破局直前のヨセフとマリアを救うには、天使の介入しか、ありえませんでした。天使のお告げが、マリアとヨセフの愛を破局から救いました。ヨセフは、マリアを疑う自分の思いよりも、預言の成就を語る天使の言葉を、より確かなものとして受けとめました。また、これが可能になったのには、ヨセフとマリアが、ともども、旧約聖書を信じ、救い主を待ち望む信仰を共有していたからです。このような信仰の備えがあったからこそ、ヨセフは天使のお告げを素直に受け入れることができました。

聖書の御言葉により信頼関係を修復する努力をした夫婦から、主イエス・キリストが救い主としてお生まれくださいました。そして、これは、夫婦間のことだけでありません。聖書を信じて、信頼関係を築き上げていく者たちの中に、救い主・イエス・キリストは、お宿りくださいます。処女降誕が科学的にあり得ないとか、イエスは私生児だとか、そのような言説に、惑わされてはなりません。そこに留まる限り、愛の破局を止める救いの力を体験することはできません。どうか、教会においでくださり、御言葉を信じる者たちの中で、あなたを救うイエス・キリストの恵みをお受け取りください。

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