レット・イット・ビー

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聖書の言葉

天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。 あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。・・・・」マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。(中略)神にできないことは何一つない。」マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。

新約聖書 ルカによる福音書 1章28~38節

吉田謙によるメッセージ

1960年代から70年代にかけて、ビートルズという男性4人組のロックグループが世界的に活躍しました。そのヒット曲の数々は、20世紀を代表する音楽として、今でも世界中で愛されています。そのヒット曲の中に「レット イット ビー」という曲があります。直訳すると、「それをそのままにせよ」「あるがままに」「御心のままに」という歌です。この「レット イット ビー」という言葉は、先程のマリアの言葉「お言葉どおり、この身に成りますように」という言葉そのものなのです。この曲の歌詞を見ますと、まるで讃美歌のような内容になっています。日本語に訳すと、こうなります。

「私が苦しみや迷いの中にある時に、

母マリアが現れて、

知恵ある言葉を語りかけてくれる。

“御心のままに"と。

暗黒の闇に呑み込まれてしまう時、

マリアは私の前に立ち、

知恵ある言葉を語りかけてくれる。

“御心のままに"と。

たとえ打ちひしがれても、

世界中で思いを一つにすれば、

必ず答えを見いだすことができる。

“御心のままに"。

たとえ離れ離れになったとしても、

また会える日がくるかもしれない。

いつか必ず答えは見つかる。

“御心のままに"。

厚い雲が空を覆う真っ暗な夜でも、

私を照らす光がある。

どうか明日まで輝き続けて欲しい!

“御心のままに"。

そう、いつか答えがわかる日が来るだろう。

“レット イット ビー"“御心のままに"」

この歌詞を書いたのは、ビートルズのメンバーの一人、ポール・マッカートニーという人です。実はこの「レット イット ビー」という曲は、ビートルズとして出された最後のアルバムの中に納められています。その最後のアルバムを制作している時に、メンバーの心はもうバラバラになってしまって、スタジオで曲を録音している最中にも言い争いが絶えなかったと言います。そんな夜、ポールは母親の夢を見ました。14歳の時に乳ガンで死んでしまったポールの母親が夢の中に現れて慰めてくれた、と言うのです。ポールの母親の名前はメアリーと言いました。英語圏ではよくある名前ですけれども、このメアリーというのはマリアの英語読みなのです。ポールは少年の頃に亡くした母親のメアリーとイエス様の母マリアの姿を重ね合わせたのでしょう。言い争うのではなくて、何とかして、これからもこのメンバーで一緒にやっていけないだろうか、という思いがポールには強くあったようです。けれども、もしかすると別々に活動することにも意味があるのかもしれない!辛い現実を、「神様の御心として、あるがままに」受け止めること。それこそが、メンバーとのいさかいの中で、ポールに必要なことだったのかもしれません。そうやってポールは、この「レット イット ビー」という曲を書き上げたのでした。

ポールの母メアリーは敬虔なカトリックの信者だったと言います。ポール自身も幼児洗礼を受けていました。けれども、ポールは決して敬虔なクリスチャンだったわけではありません。両親の元を離れ、教会を離れ、故郷を離れていったポール。そのポールが、この「レット イット ビー」という曲を書き上げたのです。これは、辛く苦しい現実の壁にぶつかったポールが、自分の原点に立ち帰ろうとした行為だったのかもしれません。ポールは、かつて母が語ってくれた聖書の言葉を思い起こし、現実を「あるがままに」受け止め、そして神様の導きにゆだねて、新たな一歩を踏み出そうとしていたのではないでしょうか。

「レット イット ビー」 「御心のままに」 「あるがままに」と日本語に訳しますと、まるで諦めの言葉のように聞こえるかもしれません。しかし、本来、この言葉は決して諦めの言葉ではないのです。ビートルズの曲には、マリアの言葉の半分しか引用されていませんから、少々、誤解されやすいですけれども、しかし本来、マリアが語った言葉には、先程も見ましたように、「あなたのお言葉どおりに」という言葉が付け加えられています。マリアは明らかに、「自分に示された神様の御言葉が、その通り、自分の人生に実現しますように」と語ったのでした。このように、このマリアの言葉は決して諦めの言葉ではなくて、むしろ自分の人生をまるごと神様のご計画に委ねる、自分の人生を献げる、という決意表明だったのです。

勿論、マリアは、この時、全てのことが理解できたわけでも、納得できたわけでもありません。突然のことで何が何だか訳が分からなかったのだと思います。けれども彼女は、天使の言葉を神様からの言葉として受けとめ、これから先、どんなことが起こるのか全く分からないままに、ただ神様を信じて、全てを神様に委ねようと決意したのでした。

私たちも、しばしば思いもよらない仕方で、神様の働きに押し出されることがあります。この道がいったいどこに向かっていくのか見当も付かないし、そもそも、この道は自分が望んだ道ではない、そう言って渋々その道を歩んでいくことがあるのです。けれども、たとえ、その時には理解できなくても、この時のマリアがそうであったように、神様は必ず、私たちにとって最善のことを計画しておられます。そのことを信じて、私たちも、マリアのように「お言葉どおり、この身に成りますように」と神様に全面的にお委ねしていきたいと思います。

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