救いの時

イエス・キリストは「時は満ちた！」と仰せになりました。神様が定めた決定的な「時」が来た。時代が変わって、新しい時が始まった！と言っておられます。それがどのような時なのかと言うと、神の福音が宣べ伝えられる時です。福音とは、良い知らせを意味します。何が良い知らせなのでしょうか。神様が定めた決定的な「時」に伝えられる「良い知らせ」とは一体何なのでしょうか。

「時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい」。

これが、今日イエス様が私たちに伝えていることです。イエス様は「時は満ちた」と言って、さらに「神の国は近づいた」と宣言しておられます。

時が満ちた際に、イエス様が宣言されたことは「神の国は近づいた」とのことでした。「神の国は、近づいた」。不思議な表現だと思います。「国が、近づいた」と言うのです。私たちの方がどこかの国に向かって近づいていくならわかるのですけれども、「国」の方が近づいてくるというのは、文字通りに受け取ろうとすると「どういうことなのだろう」と首を傾げたくなるかもしれません。

そこで、イエス様が語る「国」についてよくよく考えなければならないのですが、これは、どこか特定の国を指すものではありません。目に見えるどこかの国のことであれば、私たちの方がそこに近づいていくのでありますが、「神の国」とはそういうものではないのです。

これは、私たち人間がもつ国境ある「国」、つまり特定の地域支配とは無関係に、神様が私たちの世界を治めておられるという、神様の支配を表す言葉です。神様が私たちの主人になって、私たちの一生涯を守り導いてくださる。神様が私たちのことを顧みて、私たちに恵みを注いでくださる。そのように神様が治める世界が、やってきた。それがイエス・キリストの到来と共に多くの人に知られるようになった、という意味です。ですから、イエス様は「時は満ち、神の国は近づいた」と仰せになったわけですが、これは神様の支配を表す言葉であって、それが向こうから私たちのところに及ぶようになった、と言っているのです。

もしかしたら「支配」という言葉を聞いて、あまり良い印象を受けない方もいらっしゃるかもしれません。多くの場合、私たちは自分が誰かを支配するのは平気ですが、誰かに支配されるのは嫌がるものです。誰かに抑圧されるのはこわいことですし、何かを強制されることを好む人はあまりいません。

しかしながら、ここでイエス・キリストが私たちのところにもたらす支配は、決して上からの権力によって抑圧するものではありません。むしろ逆なのです。イエス様は、私たちと同じ目線に立って、私たちを相応しく執り成し、救うために、この世に来てくださいました。イエス様は「悔い改めて福音を信じなさい」と言って、悔い改めと信仰を求めておられますが、それができない私たちの目線に立って、私たちの代わりに神様に従順に歩まれました。その果てで、十字架の上で死なれたのです。これは、権威ある支配者というよりも、むしろ「しもべ」のような、徹底的にへりくだった姿だと思います。しかしそのイエス・キリストのしもべのような姿を通して、私たちの救いが成り立ちます。私たちは今、イエス・キリストに招かれて、イエス・キリストの十字架のゆえに、神様と共に生きることができるのです。神様の導きに身を委ねて生きることができるのです。ここに、私たちの人生に対して、どのような時も揺るがない土台が据えられます。

私たちはいま、イエス・キリストが高らかに宣言された「神の時」を生きています。イエス様は、ご自身の到来によって、神の国がすでにここに来ている喜びを宣べ伝えました。私たちのところに、神様の支配が来ていることを知らせてくださいました。私たちのもとには既に神様の支配が及んでいて、私たちはイエス様が伝えてくださった通りに、神様と共に生きています。これを一言で表現するならば、私たちは「救いの時」を生きていると言うことができるでしょう。

私たちの人生には、色々な時があります。毎日の生活を過ごしていると、喜ばしい時もありますし、反対に苦しくて辛い時もあるでしょう。私たちはそれらの間を行ったり来たりしています。けれども、そのような私たちに対して、どのような時も揺らぐことなく、変わることのない神様が、私たちの時を定め、私たちとこの世界を守り支えておられます。私たちがイエス・キリストを知って、その福音を受け止めるとき、神様が私たちに生きて働きかけてくださっていることがわかります。そうやって神様が私たちに生きて働きかけてくださっていることが、どのような時を生きる際にも、私たちの希望になります。

春が近づいてきました。春になると、進学や就職などによって生活環境が大きく変わる、という方も大勢いらっしゃることだと思います。これからどのような毎日が待ち受けているのだろうかと、期待と不安を抱くかもしれません。

どのような時にあっても、私たちには変わることのない希望があります。私たちの過ごす「時」は、神様の御手の中にあります。私たちの救いのために来られたイエス・キリストが私たちの毎日の中心にいてくださいます。神様が与えてくださる毎日の中で、神様からいただいている良いものを見出していきたいものです。そのとき、私たちの歩みに恵みが増し加えられるはずです。