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聖書の言葉

神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女に創造された。

旧約聖書 創世記 1章27節

吉田実によるメッセージ

神戸長田教会の吉田実です。いきなり私事で恐縮ですが、私はこのラジオで何度か我が家の息子のことをお話しさせていただいたことがあると思います。我が家の息子は重度の知的障がいを伴う自閉症児なのですけれども、今年の春に特別支援学校の高等部を卒業いたしまして、今は近所の作業所に通っています。少し季節外れの話題なのですが、その息子の卒業式がとても印象的で、今でも心に残っています。生徒たちはそれぞれ特徴を持っていますので、卒業証書の受け取り方ひとつ取りましても様々でした。人一倍礼儀正しくぴしぴしと歩いて行って深々と礼をして受け取る生徒もいれば、アルプスの少女ハイジがおじいさんの胸に飛び込むように、両手を広げて校長先生に向かって突進して行った女の子もいました。また、肢体不自由の生徒で腕に装着している杖を外してもらって、自分の足だけで一歩一歩歩いて行った生徒もいました。そして我が家の息子はと申しますと、興奮をして大ジャンプをしてしまいまして親といたしましては冷や汗をかきましたけれども、なんとか彼らしく笑顔で卒業証書をいただくことが出来ました。式の後には茶話会があったのですけれども、その間も息子はずっとハイテンションで、ずっとお菓子を食べていました。「この記念すべき日に、君の関心はお菓子なのか」と、少し情けない気もしましたけれども、嬉しそうにしているのでまあいいかと思いながら一緒に過ごしまして、全部終わって帰りの車の中でふと助手席に座っている彼の横顔を見ますと、目に涙がにじんでいるのです。「さみしいの?」と聞くと、「コクリ」とうなずきましたので、「あぁ、ちゃんとわかっているんだ。この子もちゃんと卒業したのだ。」と思いました。

式の後の茶話会の時に、卒業生を代表して一人の女子生徒が挨拶をしてくれました。その子は挨拶が出来るくらいですから軽度の知的障がい児で、高等部から特別支援学校に来た子なのです。彼女は、初めは友達も先生も大嫌いだったそうです。小・中と普通校に通っていたくらいの子ですから、重度の知的障がい児もいる特別支援学校に来た時に、正直な気持ちとして「なんで私がこんなところに来なければならないの!?」と思ったそうです。でも、日が経つにつれてだんだんと仲間達の優しい気持ちが伝わってきまして、どんどん仲良くなって行ったそうです。そして「修学旅行がホントに楽しかった!」と彼女は話しました。東京ディズニーランドに行ったのですけれども、親たちはみんな「かわいそうに」と思いました。その日に大雨が降ったからです。でも、その大雨の中で、「キャーキャー」言いながらみんなで乗り物に乗ったことが本当に楽しい思い出となったそうです。良いお天気でも心通う友達が一人もいなければきっといたたまれなかったでしょうけれども、大好きな仲間と一緒なら大雨でも楽しかったのです。ですから、全然「かわいそう」なんかじゃなかったのです。

「かわいそう」といえば、私は自分自身の高校生の頃の青春の日々を思い出しながら、そんな高校生活を送ることが出来なかった息子のことを、心の隅で少し「かわいそう」と思っていたかもしれません。でも、その卒業式での彼の様子や仲間たちの姿を見まして、全然かわいそうなんかじゃなかったということがよく分かりました。彼も彼なりに、とっても素敵な仲間たちと一緒に掛け替えのない青春の日々を送って、「卒業の喜び」と「別れのさみしさ」を感じながら、ちゃんと卒業したのだとわかりました。

聖書には、神様が人間を造ってくださった時に、「神にかたどって創造された。男と女に創造された。」と書かれています。それは神様が人間を自由な人格を持つ者として、語り合い、愛し合いながら共に生きる者として最初から造ってくださったということです。そして当たり前ですが、障がいがあろうと、病気になろうと、老人になって寝たきりになろうと、「人間である」ということに何も変わりはありません。ということは、人は命ある限り、障がいがあろうと、病気になろうと、寝たきりになろうと、その人なりの仕方で語り合い、愛し合い、共に生きることが出来るということです。私たちはこのことを信じたいと思います。もしかするとみなさんの身の回りにも、いろんな理由でコミュニケーションを取ることが難しい方がいらっしゃるかもしれません。でも、その方も神様が御自身にかたどって造ってくださった、語り合い、愛し合いながら共に生きることが出来る、自由な人格を持つ一人の人間でいらっしゃるということを覚えたいと思います。そして「どうせ無理だろう」「どうせわからないだろう」ではなくて、「きっと届く」「きっと伝わる」。そう信じて、そういうお一人お一人との出会いと交わりを、大切にしたいと思います。

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