与えられた使命に生きる

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聖書の言葉

天が地を高く超えているように

わたしの道は、あなたたちの道を

わたしの思いは

あなたたちの思いを、高く超えている。

旧約聖書 イザヤ書 55章9節

吉田実によるメッセージ

突然ですが、皆さんは『夜と霧』という書物をご存じでしょうか。それはユダヤ人の精神科医であるヴィクトール・フランクルがアウシュビッツでの体験を記した書物でありまして、ナチスの強制収容所に入れられるという人間にとっての限界状況の中で、なお人間としての尊厳を失わず、希望を捨てなかった人の真実な証しが記されているのです。

フランクルによりますと、そのような強制収容所における限界状況の中で、精神的なよりどころを持たない人は壊れていったそうです。逆に言えば、そのような絶望的な状況の中でなお精神的な支えを見出した人は、生き抜くことが出来たということです。その例としてフランクルは2種類の人たちのことを報告しています。

一つは、「クリスマスになったらきっと帰れる」とか「3月30日に戦争が終わるという夢を見た」とか、何の根拠もないうわさや夢を信じた人たちです。そういう人々はその通りにならなかった時に生きる気力を失ってしまいまして、少なからず死んでいったそうです。

もう一つの例は、やはり希望を失って自殺しようとしていた二人の男の例です。フランクルはその二人の男と話をする中で、未来において「彼らを待っているものがある」ということを彼らに思い出させることに成功したそうです。すなわち、一人の人は彼が愛している子供が外国で彼の帰りを待っていることを思い出しました。もう1人は科学者であって、彼の専門に関する著作のシリーズが未完成であることを思い出したのです。そういう未来において自分を待ってくれている人の存在や、果たすべき使命を思い出した時に、彼らは自殺を思いとどまることが出来たそうです。

そしてフランクルは、人間はただ自分の欲望を満たすためとか権力を手に入れるためではなくて、「人生の意味」や「目的」が明確にならなければ、人間らしく生きることは出来ないのだと語っています。そしてそのような人生の意味や目的を見出すためには、そのことについての観点のコペルニクス的転回が必要であると述べているのです。どういう事かと申しましと、自分を中心に、自分の利益という視点で世界を見つめて「わたしはこの人生から何を期待できるか」と考えるのではなくて、むしろ「人生は私に何を期待しているか」と考えることが重要であると述べているのです。

それは聖書の物の見方から言い換えるなら、「神様はこのわたしに、何を期待しておられるか」ということを考え、祈り求めるということなのだと思います。「神様がこの私を通して何をなさろうとしておられるのか。」「神様の御計画の中でわたしの果たすべき使命は何か」ということを常に考える人。そういう人は、どこにも希望を見出すことが出来ないような苦難の中にあっても尚、希望を見失わないのです。聖書の神様は、私たち人間を救うために、御自身の独り子を十字架に引き渡してくださったほどの愛の神様です。この愛の神様の御支配の中で、イエス・キリストの命と引き換えにしていただけるほど神様に愛されている、世界でただ一人の私であるということに気付いて、そんな私から始まる神様の愛の御計画があるということ、わたしにも果たすべき使命が与えられているということにぜひ気付いていただきたいのです。

それは一見何の意味もない、ほんの小さなことに見えるかもしれません。けれども、私たちがイエス・キリストの愛の光の中で、愛を持って心を込めて何かをするなら、それは決して小さなことではないのです。当たり前のことですけれども、私たちが右に行くか左に行くか迷った時に、右を選んで歩み始めたら、もう左を歩むという可能性はこの歴史の中で実現することはなくて、右を選んだという事実だけが歴史の中に実現して行くのです。同じように、もしも私たちが、たとえば「この野郎!」と腹を立てて何かをしたら、そういう暗い気持ちが歴史の中に出来事となって実現してしまって、暗い影を落としながら進展して行くのです。それは神様に逆らう意思をこの世に解き放ってしまうということなのです。けれども、私たちが神様によって造られ、神様によって愛されている、掛け替えのない私であるということに気がついて、いつもなら「この野郎!」と思って何かをするようなときに、一度立ち止まって、そこでむしろ愛を持って別のことをするなら、たとえば自分の非を冷静に認めて「ごめんね」と謝るなら、相手の隠された誠意に気が付いて「ありがとう」と感謝するなら、それは決して小さなことではありません。それは神様に逆らう暗闇の意志がこの歴史の中で実現することを水際で阻止して、それを永遠に葬り去って、代わりに神様の望まれる愛のご意志をこの歴史の中に実現させるということなのであって、その決心が愛の香りを放ちながらそこから進展して行くその先にどんなにすばらしいことが起こってゆくのか、多くの場合「今」は分かりませんけれども、やがてはすべてが明らかになる日が来るのです。神様の御計画は私たちの思いをはるかに超えて高く、素晴らしい、愛の御計画なのであって、そのことを信じて、憎むより愛する方を選ぶ今日のあなたの1歩から、新しい愛の物語が生まれるのです。

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