逆風にさいなまれて

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聖書の言葉

夕方になると、舟は湖の真ん中に出ていたが、イエスだけは陸地におられた。ところが、逆風のために弟子たちが漕ぎ悩んでいるのを見て、夜が明けるころ、湖の上を歩いて弟子たちのところに行き、そばを通り過ぎようとされた。弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、幽霊だと思い、大声で叫んだ。皆はイエスを見ておびえたのである。しかし、イエスはすぐ彼らと話し始めて、「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない」と言われた。

新約聖書 マルコによる福音書 6章47~50節

赤石めぐみによるメッセージ

人生の中で、何もかもうまく行かないようなときのことを、「逆風に遭う」と言ったりしますが、実際に、「逆風にさいなまれる」という経験をしたことのある人はどのくらいいるでしょう?台風などで、強風にあおられる、ということなら、ご経験のある方は多いと思います。実際、それによって大きな被害を受けて、風がおさまった今も、生活の立て直しのために、つらい思いをなさっている方々がいらっしゃることを覚えます。強風は、それまでの平穏な生活を一変させてしまうような強い力で、私たちを脅かしますので、これはこれで、大問題なのですが、今日は、「逆風」にこだわって、ご一緒に考えてみたいと思いました。

逆風(向かい風)に向って進み続ける、ということは、強風にあおられることとは少し違うような気がします。私たちは、自動車や電車が主な乗り物である時代に生きていますから、向かい風が吹いてきていたとしても、難なくそれに対抗して先に進んで行けてしまうので、逆風で悩む、ということはそれほど多くないのではないでしょうか。船に乗る機会もあまりありませんから、先ほどお読みした聖書の箇所にあるように、逆風でこぎ悩む、という経験をすることも少ないと思います。

私は自転車に乗ります。ロードバイクという、タイヤの細い自転車に乗って、あちこち旅をするのが好きです。しかし、自転車という乗り物は、風の影響をとても受けやすく、追い風のときは、実力以上にハイスピードで走ることができ、爽快な気分になります。しかし、逆風(向かい風)にさいなまれたとき・・・。ああ、もう、あのときのような思いにはなりたくない、と思うほど、自分の心の醜さを思い知らされました。

四国の四万十川を走りに行ったときのことです。河口からさかのぼって走るという計画でしたので、四万十川河口の町、中村まで、まず走りました。そこまでは追い風で、太平洋の雄大な景色を眺めながら快調に走ることができました。しかし、河口からさかのぼり始めたとき、方向が変わったのと、午後になって風向きが変わったのと、両方の理由で完全に向かい風になって、風に逆らって進んでいかなければならなくなりました。ものすごい力で押し戻されるので、なかなか速度を上げられず、目的地まで、暗くなる前につけるかな?と不安になるほど、進めなくなりました。

「ああ、もう、風、吹かないで!」「風向きが変わってくれたらいいのに・・・」吹いてくる風にとてもいらだちました。「ああ、神さま、どうして、今、この風向きなのですか!」風を吹かせている神さまをうらみたくなるような思いにもなりました。そうしてだんだんいらだちがつのり、風のことだけでなく、後ろからあおるようについてくる車に腹が立ったり、自分の力不足で追いつけないだけなのに、先を行く夫を恨めしく思ったり・・・。逆風のせいで、心がこんなにまですさんで、雄大な自然を見せていただいているはずなのに、それも楽しめなくなって、泣き言と恨み言ばかりを心の中でつぶやいている自分。逆風は、物理的に影響してくるだけでなく、心をさわがしくさせ、悪い思いをどんどん生じさせ、平安と喜びを全く失わせるほどの力があることを思い知らされました。自分は弱いなあ、と思わされました。逆風に負けない、強い心の持ち主になりたい、と思いました。

四万十川は、また、沈下橋という、欄干のない橋がたくさんかかっていることでも有名です。自転車で四万十川めぐりをする楽しみの一つが、この沈下橋を渡ることなのですが、その逆風の中、沈下橋を渡ってみたとき、橋の上で吹き飛ばされそうになって、怖い思いをしました。強い風も、普通の道路の上なら恐ろしいとは思わないのに、水の上だからでしょうか、沈下橋の上では恐ろしく感じました。イエスさまの弟子たちが、船の上で逆風にこぎ悩んでいたときの恐怖は、こんな感じだったのかしら?と思いました。

あのとき、弟子たちが船の上で逆風にこぎ悩んでいたとき、イエスさまの方から近づいて来てくださいました。そうして、今日、最初にお読みしたところの続きの51節には「イエスが船に乗り込まれると、風は静ま」った、と書いてあります。

逆風が止み、風が静まれば、わたしの心を渦巻いていた悪い思いは、うそのように、跡形もなく消え去ります。私たちの人生には、逆風の中を進んでいかなければならないようなことがありますね。その中を私たちはこぎ悩んで、なかなか思うように進むことが出来ない、ということがあります。イエスさまという方は、そういうわたしたちのところに、ご自分のほうから来てくださる方です。こぎ悩んでいるとき、逆風の状況のさなかにいるとき、イエスさまの方に行こうと思ったって、行けません。そういうときは、助けが来るのを待っていてよいのです。イエスさまが来てくださいます。そうして風を静めてくださるのです。そして「安心しなさい」と言ってくださいます。それまで悪い思いばかり抱いていたのが、うそのように、心が晴れ、軽くなります。イエスさまはそのようにして、私たちが罪の海におぼれてしまわないように、私たちを救い出してくださるお方です。イエスさまが、あなたにも近づいてくださいますように。イエスさまが、あなたの心にも乗り込んでくださって、あなたをさいなむ風を静めてくださいますように。

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